コラム

クラウドストレージの比較はどう進めるか|自社条件の整理からトライアル確認まで

作成者: 横河レンタ・リース株式会社|2026/09/03 15:00:01

なぜクラウドストレージの比較は難しいのか

比較が難しい理由は、各社が異なる料金の組み立て方を採用しているためです。同じ「クラウドストレージ」でも、何に対して費用が発生するかがサービスごとに違います。

保存している容量にのみ課金するサービスもあれば、データの出し入れや操作回数を別途課金対象とするサービスもあります。最低契約期間や最低利用容量を設けているものもあり、小規模な利用では実質的な負担が変わってきます。これらは優劣ではなく、設計思想の違いです。

したがって、容量あたりの単価だけを並べた表は、比較しているようで比較になっていません。自社がどう使うかによって、どの費目が効いてくるかが変わるためです。

ここで多くの現場が経験するのが、次のような展開です。各社の料金ページを開き、表計算ソフトに単価を書き写していく。ところが各社のページには細かい注釈があり、「この条件下では」「別途費用が発生する場合があります」といった但し書きが並んでいる。注釈まで表に入れると読みづらくなるため、いったん欄外にメモしておく。そうして完成した表を眺めて、なんとなく安い順に並べ替えたところで、判断材料としては何も増えていないことに気づく。

比べた気になっただけで終わってしまうのは、担当者の力量の問題ではありません。比較の順序が逆になっているためです。各社の情報から入るのではなく、自社の使い方を先に決める。そうして初めて、どの費目に注目すべきかが決まります。

比較の前に整理する自社条件

比較表を作る前に、自社側で決めておく項目は5つあります。この5つが埋まっていないと、各社の情報を集めても評価軸が定まりません。

整理する項目

具体的に決めること

決まっていないと起きること

保存対象と現在の容量

何を、どれだけ保存するか

試算の前提が置けない

増加の見込み

年間でどの程度増えるか

契約期間中に想定を超える

アクセスの頻度

平常時にどれだけ読み書きするか

取り出し条件の重要度を判断できない

復旧の要件

どの範囲を、どれくらいの時間で戻すか

回線条件の検証ができない

既存環境

使用中のBackup SoftwareやNAS

連携できず選定をやり直す

このうち、実際に手を動かしてみると引っかかるのは「現在の容量」と、そこから派生する回線の話です。

容量そのものは、NASの管理画面を見れば分かります。問題はその先で、たとえば数テラバイトのデータをクラウドへ送る場合、自社の回線でどれくらいの時間がかかるのかを見積もろうとすると、途端に情報が足りなくなります。契約している回線の公称速度は分かっても、業務時間帯に実際どれだけ帯域が空いているかを即答できる担当者は多くありません。ネットワーク機器の管理画面を開いて、そもそも帯域の使用状況を記録していなかったことに気づく、というのはよくある話です。この確認には数日から数週間の実測が必要になることもあり、比較検討の初期段階で着手しておくと後の工程が楽になります。

保存対象の整理でつまずくケースもあります。「バックアップ用に使いたい」と考えていたが、よく確認すると、実際には数年前の案件データを退避させたいという要望と混ざっていた、といった具合です。この2つは保存の目的も、必要な取り出しやすさも異なります。両者の違いは【 バックアップとアーカイブの違いとは?で整理していますので、目的が混在している場合は先に切り分けておくとよいでしょう。

5項目すべてを完璧に埋めてから比較を始めるのは、現実的ではありません。優先度が高いのは保存対象、復旧要件、既存環境の3つです。この3つが決まっていれば、少なくとも候補を絞り込む作業には進めます。増加の見込みとアクセス頻度は、概算のまま先へ進める判断もあり得ます。

なお、そもそもクラウドを使うべきかどうかから検討している段階であれば、方式の選択が先です。【 クラウドストレージとNASを比較 オブジェクトストレージとは? 】で、保存方式ごとの特性を確認できます。

各社の情報を同じ土俵に乗せる

自社条件が整理できたら、各社の情報を並べます。ここでの作業は、単価を書き写すことではなく、費用が発生する箇所を分解して並べ直すことです。

比較表の列は、次の8項目を基本とします。この構成であれば、料金体系の異なるサービスも同じ枠組みで整理できます。

確認内容

保存容量あたりの費用

課金の単位

通信の扱い

データの出入りが課金対象か

取り出しの扱い

読み出し時に費用が発生するか

最低利用条件

期間や容量の下限

保持・世代管理

世代保持や削除の条件

冗長構成

データの保護方式

連携

使用中のソフトウェアが対応するか

契約条件

解約時の扱い

8項目のうち、特に注意して確認したいのが「通信」「取り出し」「最低利用条件」の3つです。この3つは、容量あたりの単価には表れないにもかかわらず、実際の総額に影響します。

通信の扱いは、データをクラウドへ送るとき、またはクラウドから受け取るときに費用が発生するかどうかです。課金対象とするかどうかはサービスによって異なり、方向によって扱いが違う場合もあります。定期的にまとまった量を転送する運用であれば、この項目の確認は欠かせません。

取り出しの扱いは、保存したデータを読み出す際の条件です。平常時はほとんど読み出さない用途であっても、復旧が必要になった場面ではまとまった量を一度に取り出すことになります。日常的な利用パターンだけで判断すると、いざというときの条件を見落とします。

最低利用条件は、契約期間や容量の下限に関する定めです。小規模から始めたい場合や、試験的に導入したい場合には、この条件が実質的な単価を左右します。また、保存期間に下限が設けられている場合、短期間で削除しても費用が発生することがあります。

これらの条件は各社のページに記載されていますが、料金表の本文ではなく注釈や別ページに置かれていることも少なくありません。ここで起きやすいのが、容量の単価だけを表に書き写し、注釈は「あとで確認する」として欄外にメモしたまま比較を進めてしまうことです。表そのものは完成し、候補も絞られたように見えます。しかし契約後の請求で、想定していなかった費目が現れる。比較表に載せなかった条件は、検討から抜け落ちたのと同じことになります。

注釈の条件も、必ず表の中に列として持たせてください。読み取れない項目は「要確認」と記入し、空欄のまま残さないことが重要です。空欄は「該当なし」と混同されやすく、後から見返したときに判断を誤ります。

なお、各社の料金や条件は変更されることがあります。比較表を作成した時点を記録しておき、実際の契約前には改めて公式情報で確認する前提としてください。

試算とトライアルで確認する

表が埋まった段階では、まだ判断材料は揃っていません。表に書かれているのは各社が公開している条件であって、自社環境で実際にどうなるかは別の話です。

試算で確認すること

まず、自社条件を各社の料金体系に当てはめて計算します。現在の容量と増加見込みから、契約期間中の費用がどう推移するかを見ます。単年度ではなく、想定する利用期間全体で比較すると、最低利用条件や増加分の扱いによる差が見えてきます。

あわせて、復旧時にまとめて取り出す場面も想定しておきます。平常時の利用パターンだけで試算すると、有事の条件が抜け落ちます。取り出しに費用や時間の制約があるサービスでは、この試算が判断を分けることがあります。

トライアルで確認すること

多くのサービスには試用期間が用意されています。ここで確認しておきたいのは、資料からは読み取れない項目です。

確認項目

なぜ必要か

既存Backup Softwareからの接続

対応表の記載と実機の挙動が異なる場合がある

業務時間帯の転送速度

カタログ値と自社回線の実測は別

復旧の手順と所要時間

書き込めることと、戻せることは別

管理画面の操作性

運用担当者が扱えるか

対応ソフトウェア一覧に記載があっても、バージョンの組み合わせや設定条件によって挙動が変わることがあります。実際に接続してみて初めて分かる制約もあるため、対応表の確認だけで済ませず、自社の構成で試すことが望まれます。

転送速度は、必ず業務時間帯に測ってください。夜間や休日に測定した値は、日中の実運用を反映していません。

そして最も見落とされやすいのが、復旧の確認です。データを書き込めることと、必要なときに戻せることは別の問題です。トライアル期間中に、実際に一部のデータを復旧してみる。この一手間で、手順の抜けや所要時間の見積もり違いに気づくことがあります。

ここで一つ、押さえておきたい点があります。トライアルで接続でき、転送も復旧も確認できたとして、それで導入の準備が整ったわけではありません。保管先を用意することと、復旧できる運用を作ることは別の作業です。障害が起きたときに、誰が、どの手順で戻すのか。手順書がなく担当者も決まっていなければ、契約したストレージは有事に機能しません。ツールや保管先の選定だけでは埋まらない部分が残ることは、検討の初期から認識しておく必要があります。

なお、転送速度や復旧時間の目安を一般論として示すことは避けています。回線条件、データの構成、対象範囲によって大きく異なるため、自社での実測が前提となります。

 

あわせて読みたい

Wasabi Hot Cloud Storageはどんな環境に向くか|バックアップ先選定の確認項目

個別のサービスについて、どのような環境に適合するかを確認したい場合は、こちらが参考になります。

検討結果を社内で説明する

比較表と試算が揃っても、それだけで決裁が下りるとは限りません。説明を受ける側が知りたいのは、どれが安いかではなく、その判断が妥当かどうかだからです。

費用の比較表だけを提出すると、「もっと安いところはないのか」という質問が返ってきます。この質問に答えるには、なぜその候補を選んだのかを、費用以外の軸でも説明できる必要があります。現状のどこに課題があり、その候補を選ぶことで何が解決し、何は解決しないのか。この整理があると、議論が価格交渉ではなく妥当性の確認に向かいます。

選ばなかった選択肢とその理由も、記録として残しておくことをおすすめします。検討の過程で候補から外したサービスについて、なぜ外したのかを一行ずつでも書き添えておく。後から「あのサービスは検討したのか」と問われたときに、検討済みであることと、その判断理由を即座に示せます。数か月後には自分でも忘れていることが多いため、この記録は自分のためでもあります。

もう一つ、前提条件を明記しておくことが重要です。試算はデータ量と増加見込みという前提の上に成り立っています。この前提が変わればコストも変わることを、あらかじめ伝えておく。そうすることで、実際に想定を超えたときに「話が違う」という展開を避けられます。前提が変動した場合にどの程度の影響が出るかも、簡単な幅でよいので示しておくと、説明の信頼性が増します。

説明資料には、比較表そのものよりも、判断の経緯が分かる整理を添えるほうが有効な場合があります。表は根拠として添付し、本文では「何を基準に、どう判断したか」を述べる構成です。

よくある質問

Q1. 比較表は何社くらい並べればよいですか。

社数を増やすほど精度が上がるわけではありません。自社条件を整理した段階で、既存環境との連携要件や復旧要件によって候補が絞られることは珍しくなく、その場合は少数での比較でも判断は成り立ちます。逆に、条件が固まっていない段階で多くのサービスを並べても、評価軸がないため判断は進みません。まず条件を整理し、そのうえで残った候補を比べる順序が現実的でしょう。

Q2. トライアル期間はどれくらい必要ですか。

一律の期間を示すことは難しく、確認する項目の数によって変わります。接続の確認だけであれば短期間で済みますが、業務時間帯の転送速度を数日分測り、実際に復旧まで試すとなれば相応の期間が必要です。期間から逆算するのではなく、確認したい項目を先に決め、それに要する日数を積み上げる考え方が適しています。復旧テストを含めるかどうかで、必要な期間は大きく変わります。

Q3. 料金が安いサービスを選べば、コストは下がりますか。

保存容量あたりの単価だけでは、総額は決まりません。通信や取り出しの扱い、最低利用条件によって、実際の支出は変わります。また、既存環境との連携ができず追加の作業が発生すれば、その工数も実質的なコストです。自社の使い方を前提に置いた試算をしなければ、どのサービスが自社にとって費用を抑えられるかは判断できません。単価の比較は、検討の出発点ではあっても結論ではないと考えられます。

まとめ

クラウドストレージの比較が進まないのは、比べる土俵が揃っていないためです。各社は異なる料金の組み立て方を採用しており、単価を並べただけでは意味のある比較になりません。

手順としては、まず自社条件を5項目で整理します。保存対象と容量、増加の見込み、アクセス頻度、復旧要件、既存環境。このうち保存対象、復旧要件、既存環境の3つが決まっていれば、候補を絞る作業には進めます。

次に、費用が発生する箇所を分解して比較表を作ります。特に通信、取り出し、最低利用条件の3項目は、単価には表れず総額に効きます。注釈の条件も表の中に列として持たせ、読み取れない項目は空欄にせず「要確認」と記入しておきます。

表が埋まっても、そこで判断はできません。自社条件を当てはめた試算と、トライアルでの実測を経て、ようやく材料が揃います。そして保管先を用意することと、復旧できる運用を作ることは別の作業である点も、あわせて押さえておきたいところです。

社内での説明に必要なのは、最安の答えではなく判断の妥当性です。選ばなかった理由と前提条件を残しておくことが、その助けになります。

バックアップ用途で検討している場合は、保存先の選定と並行して【 321ルールとは?で構成そのものの考え方も確認しておくと、判断の土台が整います。

 横河レンタ・リースは、IT 機器のレンタル・販売に加え、ストレージやバックアップの構成設計から運用保守までを組み合わせて提供しています。保存先の適合判断や既存運用への組み込みを自社だけで判断するのが難しい場合は、資料のご確認や構成のご相談から始める選択肢もありますので、ぜひお気軽にご相談ください。 

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