コラム

通信業のインフラ運用を止めないために - 監視・障害対応・セキュリティーを分けずに見直す視点

作成者: 横河レンタ・リース株式会社|2026/08/02 15:00:00

「止められない」が前提の現場で、実際に起きていること

通信に関わる事業では、インフラの停止がそのままサービス品質の問題になります。社内の業務システムが 30 分止まるのとは、影響の見え方が違います。この前提は、運用のあらゆる判断に効いてきます。

たとえば、監視項目を減らす提案が通りにくい。減らして何かを見落としたときの責任が明確なため、「念のため残しておく」が積み上がります。結果として通知は増え続け、当番の負荷も増えていきます。

パッチ適用の日程調整も同じです。適用そのものは 30 分で終わるのに、影響範囲の確認と関係部署への周知に数週間かかる。その間に次の脆弱性情報が来る。適用待ちのリストが少しずつ長くなっていきます。

そして、こうした状態は誰かが手を抜いた結果ではありません。むしろ真面目に「止めないこと」を優先し続けた結果として、静かに固定化していきます。だから当事者からは見えにくく、外から見ると分かりやすい、という性質があります。

設備側と社内 IT 側、二重の担当範囲

通信業の情報システム担当者に特有の事情として、見る対象が二重になりやすい点があります。顧客に提供するサービスを支える設備側と、自社の従業員が使う社内 IT 基盤側。前者には運用部門や設備部門がいて、後者は情シスが見る。ところが、認証基盤やログ収集、ネットワーク機器のように両方にまたがる領域があり、そこが誰の担当なのかは曖昧なまま運用されていることがあります。

障害が起きたときに最初に困るのは、たいていこの境界領域です。切り分けの前に、まず誰に連絡するかで少し止まる。この数分が積み重なります。

大手キャリアの運用改善事例が、そのまま参考にならない理由

運用改善を調べ始めると、必ず目に入るのが大手キャリアの取り組みです。AI エージェントによる障害対応の自動化、デジタルツインを使ったゼロタッチ運用、自律型ネットワークの成熟度認定。読むと確かに参考になりますし、方向性としては間違っていません。

ただ、これらを自社に持ち込もうとすると、たいてい最初の一歩で止まります。前提条件が違うからです。

公表されている数字は、前提とセットで読む

たとえば、あるキャリアがインシデント管理の仕組みを入れて、月 1 万件のアラートを 1000 件まで減らし、初動を数時間から数分に短縮した事例があります。数字だけ見れば劇的です。ただしこの改善は導入から 5 年をかけて段階的に進められたもので、その間に運用ルールの標準化、ナレッジの蓄積、通知の仕分け基準の確立が並行して行われています。ツールを入れた結果として 5 年後にそうなった、という順序ではありません。

100 万台規模の装置を対象にした AI 監視や、全国 1 万台のネットワーク機器を対象にしたデジタルツインも同様です。対象規模が大きいからこそ、学習データが集まり、自動化の投資対効果が成立します。数十台から数百台の環境で同じ構造を作っても、期待した精度は出にくいでしょう。

参考にすべきなのは、数値ではなく順序

では参考にならないのかというと、そうではありません。参考にすべきなのは改善の順序のほうです。どの事例も、通知を減らす前に「何を通知とみなすか」の基準を作っています。自動化の前に、対応手順を人が書ける状態にしています。この順序は規模によらず共通です。

過度な期待は禁物、という言い方が適切かもしれません。AI や自動化で運用が軽くなる部分は確かにありますが、それは判断基準が整理された後の話です。

監視の見直しで最初に問うべきは、対象ではなく誰が判断するか

監視の改善というと、監視対象の見直し、しきい値の調整、通知ルールの整理といった話になりがちです。これらは確かに効きますし、手法としても確立しています。

ただ、通信業の運用現場で先に詰まるのは、多くの場合その手前です。

対応手順が書けないアラートが、どれだけあるか

試しに、自社のアラートを 1 週間分並べて、それぞれに「これを受けたら誰が何をするか」を書いてみてください。書けるものと書けないものが出てきます。書けないもの、つまり対応手順が定義できていないアラートが一定量あるなら、通知設計を触る前にそこを整理したほうが早い可能性があります。

さらにもう一段。書けたものについて、「その判断は当番の誰でもできるか」を確認します。ここで名前が特定の 1 人か 2 人に寄るなら、それは通知件数の問題ではなく、判断が属人化している問題です。件数を半分に減らしても、残った半分の判断は同じ人のところに来ます。

夜間休日の通知そのものをどう減らすかについては、通知ルールや一次切り分け手順の設計という別の論点があります。手法面については、夜間休日のアラート対応を減らすには?情シスの運用負荷を下げる監視・一次対応の考え方 をあわせてご覧ください。

監視を絞ることには、当然リスクもある

監視対象を絞ることにはリスクが伴います。減らした先で見落としが起きれば、判断した人が責任を負うことになる。この構造がある限り、現場の判断だけで監視を絞るのは難しいはずです。絞るなら、絞る基準を組織として決める必要があります。

障害対応が長引く原因は、技術力より前提情報の欠落にある

障害が起きたとき、復旧まで想定より時間がかかった。振り返りで「切り分けに手間取った」という記録が残る。翌月も似た記録が残る。

こうしたとき、原因を担当者のスキルに求めても改善しません。実際に時間を食っているのは、多くの場合、判断の前に必要な情報を探す工程です。

最新の構成図がどこにあるか分からない。あったとしても、半年前の変更が反映されていない。保守契約の範囲が曖昧で、ベンダーに連絡していいのか、まず自社で切り分けるべきなのか迷う。過去に同じ症状が出たことは覚えているが、そのときの対処内容がチケットに残っていない。

一つひとつは小さな引っかかりです。ただ、深夜の障害対応中にこれが 3 つ重なると、30 分は簡単に溶けます。通信業の場合、ここに設備側と社内 IT 側の境界が加わります。障害の入口がどちらなのか判然としない状態で、両方の担当に確認を取りながら進めることになる。連絡が付くまでの待ち時間も、復旧時間に含まれます。

全部を書き直す必要はない

対策として即座に思いつくのは「ドキュメントを整備する」ですが、これは長年言われ続けて実現していないことでもあります。現実的なのは、全部を書き直すのではなく、直近 1 年の障害で実際に探した情報だけを対象に絞ることでしょう。探さなかった情報は、今のところ不要だったということです。

セキュリティー強化を別枠で進めると、運用側にしわ寄せが出る

セキュリティー対策の強化は、多くの場合、運用改善とは別の文脈で始まります。委託元からの要請、業界のガイドライン改定、他社の被害報道。予算も別枠で確保され、担当も別に立つ。

ここで見落とされやすいのが、検知の仕組みを増やすと、そのぶん対応の仕事も増えるという当たり前の事実です。

端末の挙動を監視する仕組みを入れれば、これまで見えなかった事象が見えるようになります。見えるようになったものは、確認する必要があります。確認して問題なしと判断する作業も、時間としてはゼロではありません。脆弱性情報の収集を強化すれば、適用判断の対象が増えます。ログの保全範囲を広げれば、保管と定期確認の運用が発生します。

つまりセキュリティー強化は、リスクを下げる一方で、運用の作業量を確実に増やします。この増分を誰が引き受けるのかを決めないまま導入すると、結局は既存の運用担当のところに積まれます。そして、その担当は既にアラート対応で手一杯だったりします。

「セキュリティーを強化すべきではない」という話ではありません。強化する際に、運用側の受け皿を同時に設計しないと続かない、という話です。導入して半年後にアラートが放置されている状態は、導入前より説明が難しくなります。

セキュリティー領域の組み合わせ方そのものについては、ID 管理・SOC・EDR・脆弱性対応をどう組み合わせるか で別途整理しています。

止められない環境ほど、EOL と保守終了の判断が遅れる

もう一つ、通信業のインフラ運用で効いてくるのが時間軸の制約です。

機器や OS には、必ず保守終了の期限があります。期限が来ても翌日に止まるわけではありませんが、修理部品の供給とセキュリティー更新の提供が終わります。ここまでは一般論です。

先送りが、選択肢を静かに減らしていく

問題は、止められない環境ほど、この判断が後ろにずれることです。更新するには停止を伴う。停止するには影響確認と調整が要る。調整には時間がかかる。だから「次の閑散期に」となり、閑散期には別の案件が入り、また次に回る。動いているものを触るリスクと、触らないリスクを比べたとき、目の前で見えているのは前者だけです。

そうして数回先送りしたころ、保守終了の通知が届きます。このとき既に、検証期間を確保できるだけの猶予が残っていないことがあります。選べたはずの手段(段階移行、部分的な更新、延長保守を挟んでの計画的な刷新)が、時間切れで消えていく。最終的に、短期間での駆け込み更新か、保守なしでの継続利用かの二択になります。

期限ではなく、意思決定の日付を置く

回避策として現実的なのは、保守終了日から逆算して、検証と切り替えに必要な期間を先に確保してしまうことです。逆算すると、意思決定のデッドラインが期限そのものよりかなり手前に来ることが分かります。その日付を機器台帳に書いておくだけでも、社内での議論の起点になります。

このあたりの考え方は、「機器の更新」ではない IT インフラ整備 - EOL・運用負荷・属人化を整理する視点 でも扱っています。

手を付けなかった場合に、静かに積み上がるもの

ここまでの話は、どれも「今すぐ何かが起きる」類のものではありません。だからこそ後回しになります。では、手を付けないと何が起きるか。最初に表面化するのは、意外にも障害ではなく、説明を求められる場面です。

委託元や取引先からセキュリティーに関する確認票が届く。監視体制、障害時の連絡フロー、脆弱性対応の実施状況、ログの保管期間。埋めようとすると、「実態としてはやっているが、文書としては存在しない」項目が並びます。急いで作ると、今度は実態と合わない文書ができあがります。

次に来るのが、人の入れ替わりです。夜間対応の判断ができる人が異動する。引き継ぎ資料を作ろうとして、書けないことに気付く。書けないのは、その人が隠していたからではなく、判断の根拠が経験の中にあるからです。

障害そのものが起きるのは、たいていその後です。しかも、体制が薄くなった後に起きるため、復旧に想定以上の時間がかかる。そこで初めて経営層に問題が認識される、という順序を辿ります。順序を逆にできるかどうかが、運用体制を見直すかどうかの分かれ目になります。

外部に任せるとき、判断に迷いやすいところ

運用の一部を外部に委託するのは、現実的な選択肢の一つです。ただし「任せれば負荷が下がる」と単純化すると、期待とずれます。実際につまずきやすいのは、次の 3 つの場面です。

稟議を出す段階

委託費用に対する効果を説明しようとすると、削減できる工数を数字で出す必要があります。ところが、夜間対応の負荷は残業時間として計上されていないことが多く、根拠が示しにくい。ここで止まる案件が相当数あります。対策としては、削減効果ではなく「担当者が不在になったときの復旧時間」をリスクとして提示するほうが、説明が通りやすい場合があります。

契約範囲を決める段階

どこまでを任せるかの線引きです。監視だけ委託して一次対応は自社に残すと、通知の受け取り先が増えるだけで負荷は変わりません。逆に判断まで任せると、今度は自社側に判断できる人が育たなくなります。どちらが正しいということはなく、自社にどの能力を残したいかで決める話です。

運用が始まった後

委託先は契約範囲の中で動きます。範囲外の事象が起きたとき、結局は自社で判断することになります。この「範囲外が来る頻度」は、契約時点では読みにくい部分です。最初の半年は想定より自社側の関与が必要になる、と見ておいたほうが現実に近いでしょう。

委託は万能ではありません。ただ、判断の属人化が進んでいる状態を放置するよりは、選択肢として検討する価値があります。

よくある質問

Q:監視ツールを入れ替えれば、アラート対応の負荷は下がりますか?

ツールの機能によって通知の集約や仕分けは改善しますが、通知を受けた後の判断は残ります。判断が特定の担当者に集中している状態であれば、件数が減っても負荷の実感はあまり変わらないことがあります。まず、対応手順が書けているアラートの割合を確認してみてください。

Q:大手キャリアが導入しているような AI 監視や自動復旧は、中小規模でも導入できますか?

技術的には利用可能なものもありますが、効果は前提条件に左右されます。公表されている事例の多くは、対象規模が大きく、数年単位の継続改善と専任体制を伴っています。同じ数値を期待するより、事例の中の改善の順序を参考にするほうが実務的です。

Q:動いている機器の更新は、いつ判断すればよいですか?

保守終了日そのものではなく、そこから検証期間と切り替え期間を逆算した日付を意思決定の期限にすると、選択肢を残しやすくなります。逆算すると、想定よりかなり手前にデッドラインが来ることが多いはずです。

Q:セキュリティー対策を強化すると、運用の負荷は増えますか?

増える領域があります。検知の仕組みを増やせば確認作業が発生し、脆弱性情報の収集を強化すれば適用判断の対象が増えます。減る領域(事後対応の頻度など)もありますが、導入直後は増える側が先に来ます。受け皿を先に決めておくことをお勧めします。

Q:運用を外部に委託すると、社内にノウハウが残らなくなりませんか?

委託範囲の設計次第です。判断まで含めて任せると、社内で判断できる人は育ちにくくなります。一次切り分けは委託し、方針決定は自社に残すといった線引きが取られることもあります。どの能力を自社に残したいかを先に決めておくと、契約時の議論がぶれにくくなります。

まとめ

通信業のインフラ運用では、「止められない」という前提が、監視・障害対応・セキュリティー・更新判断のすべてに影響します。個別に改善しようとすると噛み合わないのは、この前提が共通の制約になっているためです。

見直しの入口としては、次の 3 点を書き出してみるところからで十分だと思います。

  • 直近 1 か月のアラートのうち、対応手順が書けるものはどれくらいあるか

  • その判断ができる人は、当番の中に何人いるか

  • 保守終了が近い機器について、意思決定の期限はいつか

書き出してみて特に問題がなければ、今の体制は回っているということです。もし手が止まる項目があれば、そこが議論の出発点になります。
社内だけで整理しきれない場合や、更新判断と運用体制をあわせて検討したい場合は、機器の調達段階から運用支援まで通して相談できる相手を持っておくことも、一つの選択肢です。

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