企業のIT基盤は、一度構築すれば終わりではありません。サーバーやネットワーク機器には保守期限 (EOSL) があり、期限を過ぎるとメーカーからの修理対応やセキュリティーパッチの提供が打ち切られます。加えて、ランサムウエアをはじめとするサイバー攻撃の被害が年々拡大しており、脆弱な環境を放置するリスクは高まる一方です。
IPA (独立行政法人 情報処理推進機構) が公開している「DX実践手引書 ITシステム構築編」 (※1) でも、レガシーシステムの刷新と段階的な移行計画の重要性が繰り返し指摘されています。「動いているから問題ない」という判断を続けると、障害発生時に復旧手段がない、業務拡大に対応できないといった事態に陥るおそれがあります。
こうした背景から、場当たり的な機器更新ではなく、構築プロセスに沿ってIT基盤全体を見直すことが求められています。
(※1)DX実践手引書 ITシステム構築編 | 社会・産業のデジタル変革 | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
IT基盤の構築プロセスは、大きく7つの工程で進みます。各工程で「何を決めるか」「どこに注意するか」を明確にしておくことで、手戻りやコスト超過を防ぎやすくなります。
最初の工程は、自社のIT環境を正確に把握することです。サーバーやネットワーク機器の台数・設置場所・導入時期・保守契約の状況を一覧化し、EOSLが迫っている機器や、セキュリティーリスクを抱えている箇所を洗い出します。
以下の5項目を整理するだけでも、課題の優先順位が見えてきます。
■ IT資産棚卸しチェックリスト
機器台帳 (サーバー、スイッチ、ルーター、ストレージ等) の有無と最終更新日
各機器のEOSL時期と残存保守期間
OS・ミドルウエアのバージョンとサポート状況
バックアップの取得状況と復旧テストの実施有無
ネットワーク構成図の有無と実態との整合性
この段階で現場へのヒアリングも欠かせません。管理部門だけでなく、実際にシステムを使う現場担当者の声を集めることで、「日常的に困っていること」が浮き彫りになります。
要件定義は、構築後の「使える・使えない」を分ける最初の分岐点です。ここでは、アプリケーション側の要件 (業務要件) とインフラ側の要件 (非機能要件) を分けて整理することが重要です。
■ 非機能要件チェック表 (主な観点)
可用性:システムの稼働率目標 (例:99.9%) 、冗長構成の要否
性能:同時接続ユーザー数、ピーク時のレスポンス許容値
拡張性:今後3〜5年の利用者数・データ量の増加見込み
セキュリティー:アクセス制御方針、暗号化要件、ログ保存期間
バックアップ・DR:バックアップ頻度、目標復旧時間 (RTO) 、目標復旧時点 (RPO)
業務要件だけを先行して固めると、後からインフラ側の制約が判明し、設計のやり直しが発生しやすくなります。両方を並行して整理することが、手戻りを防ぐ鍵です。
基本設計では、要件定義の内容をもとにシステム全体の構成方針を決めます。とりわけIT基盤の構築では、「オンプレミス」「クラウド」「ハイブリッド」のどの形態を選ぶかが大きな分岐点になります。
■ 従業員規模別 構成パターン早見表
〜50名規模:クラウド中心 (IaaS/SaaS) + 簡易オンプレ (NAS等)
50〜300名規模:ハイブリッド構成 (基幹系はオンプレ、情報系はクラウド)
300名〜規模:オンプレ+プライベートクラウド、マルチクラウド構成
上記はあくまで目安です。業種特有の規制要件やデータの機密性によっても最適な構成は変わります。重要なのは、「コスト」「セキュリティー」「運用負荷」「拡張性」の4軸で比較検討することです。
詳細設計では、基本設計で決めた方針をもとに、サーバーのスペック、OSやミドルウエアの選定、ネットワーク構成、セキュリティー対策、バックアップ設計、DR (災害復旧) 設計といった具体的な構成を決定します。
特にIT基盤の構築では、以下の3点を設計段階で組み込むことが欠かせません。
冗長構成:主要サーバーやネットワーク経路を二重化し、単一障害点 (SPOF) をなくす
バックアップ設計:3-2-1ルール (3つのコピー、2種類の媒体、1つはオフサイト) を基本とする
セキュリティー設計:ファイアウォール、UTM、アクセス制御、ログ管理を初期段階から計画する
設計書は、後の構築・運用フェーズで「なぜこの構成にしたのか」を振り返るための重要な資産です。構成の根拠を明文化しておくことで、担当者が交代しても運用品質を維持しやすくなります。
設計書に基づいて、サーバーやネットワーク機器の調達、OSやソフトウエアのインストール、各種設定を進めます。クラウド環境の場合は、管理コンソール上で仮想サーバーやネットワークを構成します。
ここで検討しておきたいのが、IT機器の調達方法です。購入とレンタルでは、初期費用、会計処理、機器の入れ替えサイクルに大きな違いがあります。
■ 購入 vs レンタルの比較 (主な観点)
初期費用:購入は一括負担が大きい/レンタルは月額に分散できる
会計処理:購入は資産計上 (減価償却) /レンタルは経費処理が可能
機器更新:購入は廃棄・処分の手間が発生/レンタルは契約満了時に返却・入れ替えがしやすい
柔軟性:購入は構成変更に追加投資が必要/レンタルは契約見直しで対応しやすい
自社の財務方針やIT投資計画に合わせて、最適な調達方法を選択することが大切です。
テスト工程の短縮は、本番稼働後のトラブル対応コストとして必ず跳ね返ります。IT基盤の構築では、アプリケーション側のテストに加えて、インフラ固有の検証項目を設けることが重要です。
負荷テスト:想定されるピーク時のアクセスを再現し、応答速度やリソース消費を測定する
フェイルオーバーテスト:サーバーやネットワーク機器を意図的に停止させ、冗長構成が正しく切り替わるかを確認する
セキュリティー検証:脆弱性スキャンやペネトレーションテストを実施し、設計どおりの防御が機能しているかを確認する
バックアップ・リストアテスト:バックアップデータから実際に復旧できるかを検証する
テストの合否判定基準は、事前に関係者間で合意しておくことが不可欠です。「何をもって合格とするか」が曖昧なままだと、判断が属人化し、品質にばらつきが出ます。
システムは稼働してからが本番です。日々の監視、パッチ適用、バックアップの確認、障害時の対応手順の整備など、安定稼働を支える活動が運用・保守にあたります。
IT基盤の運用で見落としがちなのが、「定期的な見直しサイクル」です。年に1回は構成の棚卸しを行い、EOSLの到来時期、トラフィックの変化、セキュリティー脅威の動向を踏まえて改善計画を立てましょう。構築時点の最適解が、3年後も最適とは限りません。
運用フェーズの体制とコストは、構築前の段階で関係者間の合意を得ておくことが重要です。「構築して終わり」にしない仕組みづくりが、IT基盤の長期的な安定稼働を支えます。
IT基盤の構築プロセスには、ソフトウエア開発とは異なる固有のリスクがあります。ここでは、実際に起こりやすい3つの失敗パターンを紹介します。
現行環境の構成やデータ量を正確に把握しないまま移行を進めると、「旧システムにあったデータが新環境に移行されていない」「ネットワーク設定の互換性が取れず通信できない」といった問題が発生します。移行前の棚卸し精度が、移行後の安定性を左右します。
業務要件 (画面や機能) の議論に時間を取られ、可用性・性能・セキュリティーといった非機能要件の検討が後回しになるケースは少なくありません。その結果、本番稼働後に「アクセスが集中すると極端に遅くなる」「障害時に復旧手順がない」といった深刻な問題が表面化します。
構築プロジェクトに注力するあまり、運用フェーズの設計が手薄になることがあります。監視体制、パッチ適用のルール、障害対応フロー、ドキュメントの更新ルールが定まっていないと、特定の担当者に知識が集中し、その人が不在になると対応できないという属人化リスクが生まれます。
ここまで紹介した工程と落とし穴を踏まえ、IT基盤の構築プロセスを成功させるための実践ポイントを5つにまとめます。
経営目標とIT基盤の整合性を取る:「なぜこのタイミングで基盤を刷新するのか」を経営層と共有し、投資判断の根拠を明確にする
スコープを「必須」と「将来対応」に分ける:すべてを一度に実現しようとせず、優先度の高い要件から段階的に着手する
セキュリティーとバックアップを設計初期に組み込む:後付けの対策は、コストが膨らみ、設計の一貫性も損なわれやすい
現場ヒアリングを複数回実施する:要件定義時だけでなく、設計・テストの段階でも現場の声を取り入れ、認識のずれを早期に解消する
運用・保守の体制とコストを構築前に合意する:運用開始後に「誰が何を担当するのか」「月額コストはいくらか」を決めておくことで、継続的な改善サイクルが回りやすくなる
IT基盤の構築を自社で進めるか、外部の専門会社に委託するかは、多くの企業が悩むポイントです。以下の4つの質問に答えることで、大まかな判断の方向性が見えてきます。
■ 判断フローチャート (簡易版)
Q1. 社内にインフラ設計・構築の経験者がいるか? → いない場合は外部委託を推奨
Q2. 対象範囲はサーバーだけか、ネットワーク・セキュリティーも含むか? → 複合領域なら外部委託の方がリスクを抑えやすい
Q3. 構築完了までの期限に余裕があるか? → 短期間で完了させる必要がある場合は、経験豊富な外部パートナーの活用が有効
Q4. クラウド移行やハイブリッド構成を検討しているか? → 構成の複雑性が高い場合は、設計段階から専門家の支援を受ける方が確実
横河レンタ・リースでは、ITインフラの設計・構築から運用支援まで、お客さまの環境に合わせた一貫したサポートを提供しています。IT機器のレンタルを活用した柔軟な調達も含め、コストと運用負荷のバランスを考慮したご提案が可能です。自社だけで判断が難しい場合は、まず現状の課題を整理するところからご相談ください。
IT基盤のシステム構築プロセスは、現状棚卸し、要件定義、基本設計、詳細設計、構築・導入、テスト・検証、運用・保守という7つの工程で進みます。大切なのは、単に機器を入れ替えることではなく、自社の業務課題とIT環境を結び付け、安定して使い続けられる基盤を整えることです。
構築プロセスを成功させるためには、以下のポイントを押さえましょう。
経営目標との整合性を確認し、投資判断の根拠を明確にする
業務要件と非機能要件を並行して整理し、手戻りを防ぐ
セキュリティーとバックアップは設計初期から組み込む
運用フェーズの体制とコストを構築前に合意する
定期的な見直しサイクルを設け、IT基盤を継続的に改善する
横河レンタ・リース株式会社では、ITインフラの構築に関する豊富な知見をもとに、お客さまの環境に合わせたご提案から構築、運用支援までをサポートしています。システム構築の進め方にお悩みの場合は、お気軽にご相談ください。